毛氏書童王文祥

隷書(れいしょ)

七律 長征   1935年10月

 

紅軍不怕遠征難

万水千山只等閑

五嶺逶迤騰細浪

乌 蒙磅礴走泥丸

金沙水拍雲崖暖

大渡橋横鉄索寒

更喜岷山千里雪

三軍過後尽開顔

 

[日本語版]

         かた おそ

紅軍は遠征の難きを怕れず

ばんずいせんざん    こともなし

万水千山       ただ閑

ごれい うね  うね  こまか おど

五嶺は 逶りに迤りて 細き浪を騰らせ

うもう はてしなくひろがり つちたま ころ

烏蒙は磅    礴     泥の丸を走がす

きんさ   うんがい う    あたた

金沙の水 雲崖を  拍ちて 暖かく

だいと  てつさく

大渡の橋 鉄索を横たえて 寒し

さら     びんざん

更に喜ぶよ 岷山千里の雪

           ことごと わらう

三軍 過ぎてのち 尽く   開顔

 

 

 中国赤軍は長征がどんなに困難であろうと怕はしない。険しい山、急な河がいくつも前途に待っているのを、まるで平坦な道でもいくように、平然と通り過ぎるのである。

 五嶺の山々はうねうねと幾重にもつづくが、赤軍の眼には小さな波が

たっているように見え、烏蒙の雄大な山嶺はものすごい勢いをもってそびえているが、これまた、ころがっていく泥の弾丸の描く線のようにしか、見えない。金沙江の急流のぶつかる断崖は、高くそびえて雲がかかり、暑いことは暑いが、まあ暖かい程度とでもいっておこう。その先、大渡河には橋がかかっていたが、これが鎖だけて、急流のうえに、高くかかる鉄の鎖は寒さを感じさせる。

 岷山のどこまでもつづく雪景色を賞でながら、長征の最後の難所を、わが赤軍の兵士たちはついに歩ききった、難所をすぎて、いま兵士たちの顔はひとり残らず笑っている。